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トラウマ治療・EMDR

EMDR治療の特徴

治療の即効性

EMDR治療の特徴として、まず挙げるべきは治療の即効性です。臨床経験および国際学会事例報告から精神分析的療法が何年もかかって達成する(できないこともある…)ことを、僅か数回のセッションで達成してしまうことが、さほど珍しい事ではありません。

EMDRは「眼球運動(両側性刺激)」だけの単純な療法ではなく、既存の様々な療法の長所を取り入れて、そこに眼球運動効果をうまく組み入れたものです。確かに、ターゲットとすべき事象を最初に探る過程は、従来の精神療法・カウンセリング、特に初回面接と呼ばれる過程とそれほど違いはありません。そこでは、まず、治療同盟を支える治療者への信頼を醸成しつつ成育史など必要な情報を収集し、現在表面化している問題についてその根源を探ろうとします。

しかし、ここから後が少々違っています。症状の根源と思われる否定的な感情をともなう事象が見出されれば、処理に付随する心理的負荷の耐性を育成した後、速やかに眼球運動を実施、短い両側性刺激(約25往復)と休息、短期の暴露効果で更なる連想が驚異的な速さで展開されて行くため数回のセッションで目覚しい治療的効果が得られるのです。

ちなみに眼球運動の効果として2は、以下のようなものを挙げることができます。

  1. 連想を活性化し促進する⇒さまざまな見方、多面的総合的理解への道をひらく
    これは、眼球運動がもたらす基本的効果だといわれています。潜在していた理解力や洞察力が、十全に発揮されるようになります。EMDR情報処理モデルでは外傷的出来事へのアクセスの促進が強調される傾向にありますが、実際は、過去の体験に関する記憶であろうと、現時点での空想(想像/創造)であろうとさまざまな連想を活性化します。そして、記憶でも空想であろうとも、何が出てこようと、堂々巡りでの介入を除けば、「それと一緒に」「それに気づいて」を続けて行けば、満足いく結果が得られています。

  2. 心の隅に、封じ込められていた過去の外傷的出来事への速やかなアクセスを可能にする
    驚くほど速やかに、過去の外傷的出来事が想起されてきます。但し、それらは「心的現実」であり、客観的現実を保証したものではありません。

  3. ある出来事に対する否定的な感情や認知を緩和修正し、それを肯定的な感情、肯定的な認知を同化/定着させる
    否定的なものの緩和修正は上記①の連想の活性化によるところが大きいようですが、それだけではなく、眼球運動(両側性刺激)がより直接的に作用する印象もあります。

即ち否定的なものは原心性によって直ちに「ダメ!⇒排除」となります。いつもそのように排除できれば問題は生じないのですが、実際にはすぐには排除できないことが多く、その為に「ダメ!」が残り続けます。 ここで原心性的な否定的な「即ダメ!即、排除」という傾向を少し我慢して、否定的なものとしばらく寄り添っていることができれば否定的なものは意外と速やかに消えてしまいます。日常の臨床体験で示されるものです。

EMDRに於けるこの否定的なものの緩和修正は、生じてきたものが何であれ「それと一緒に」「それに気づいて」といいながら行われる眼球運動(両側性刺激)が、まさに、否定的なものとしばらく一緒にいることを実行し易くしていることになるのでしょう。

また否定的なものへの刺激よりゆっくりとした眼球運動は、肯定的な感情や認知を心に同化/定着させる働きもあります。この作用は、催眠暗示に近いものかも知れません。但し、同化/定着は、「頭で分かっても気持ちは納得できない」といった命題には有効ですが、真実でない命題や「頭でも全く正しいと思えない」命題には無効です。つまり納得できないことには同化/定着はできない、洗脳ではないということです。

この強力な効果が存在することで、EMDRはこの手法を中心にかなりのマニュアル化を達成しています。過去を殆ど扱わない行動療法/認知療法では既にマニュアル化はある程度なされていて、決して珍しいことではないのですが、本格的に過去を扱う治療法に於いてのマニュアル化の成功だとすれば、これはやはり驚くべき出来事でしょう。EMDRが欧米でも日本に於いても、比較的スムーズに普及しつつある、その理由の一つです。

確かにマニュアル化は主要徴候の一つです。 ただ、EMDRに於いて整理されてきている「マニュアル」は、インフォームド・コンセントの為の説明や「教示」、一部の手順などを除くと、緩やかなガイドライン的なものです。それはごく一部分に留まるものです。

薬剤との比較

米国の国立精神衛生研究所NIMHは、トラウマ治療に於いて、ブロザックよりEMDRの方が優れていると報告しています。眼球運動および他の左右交互のリズミカルな刺激による不安や恐怖、罪悪感などの否定的な感情の処理が、最も効力があるとされている薬剤以上のものであるなら、これまでのように多くの薬剤を使う必要がなくなるでしょう。

EMDRは精神病を、またあらゆる精神症状をも適用範囲に入れていますから、この療法が広まれば、薬剤は激減し、医療費削減が進展することになるでしょう 。

精神障害のトラウマ・モデルにおける再評価

EMDR治療で対象とされているトラウマには、災害や戦争、重大事故、犯罪被害、虐待などの公式に認められている狭義のトラウマのみならず、より私的で微妙な、例えば、親の共感・共鳴不全による傷つき、或いは乳児期の言語疎通不能、また児童期、青年期、成人期のいじめやハラスメントによる外傷体験に至るまで、大小様々なものが含まれています。

従って、その帰結とみなされている事象も、単純なPTSDから小児の発達障害に至るまで、精神病の場合でさえ、その生活環境に由来する部分に働きかけ、より健康な人生を送ることに、EMDRが貢献できると考えられています。統合失調症も基本的なところではトラウマ・モデルで考えられ、このような見解には治療者としては、大いに、力づけられます。

究極の精神分析療法としてのEMDR

多くの精神病理の起源は大小さまざまな外傷体験にあると考える点で、EMDRの精神病理理論はフロイト以来の精神分析的外傷理論です。治療おいて、外傷体験にまつわる連想を促そうとする点は精神分析と同じです。

ただ大きく異なるのは、精神分析の「自由連想法」に比べてEMDRの方が、格段に早く連想が進み、治療者の「解釈」などの介入を殆ど必要としない点でしょう。フロイトに始まる精神分析は、これまでに多くの理論的実践的発展を遂げてきていますが、それは概ね、過去の外傷的体験記憶の想起/再構成から、「今、ここで」での治療関係に転移された過去を扱う、という方向で為されてきたように思われます。

過去の外傷的体験の想起/再構成 ⇒ 現在の治療関係に転移 ⇒ 過去の外傷的体験パターンの治療的処理

EMDRでいう加速情報処理 accelerated information processing とは、自由連想法による「煙突掃除」というフロイトの古典的方法に新たな装いを与えたものであるとすると、EMDRは精神分析の究極の発展型であり、その正統な後継者なのかも知れません。

EMDR治療の実際

EMDRは、否定的な感情が処理されることで、過去の外傷的体験に関してより肯定的な理解が生じ、人生により前向きに取り組めるようになります。

  1. 「それと一緒に」の意義
    EMDRでは、25回前後の眼球運動(他の両側性刺激・触覚、聴覚)が終わるたびに、「今、何がありますか?」と浮かんできたものを訪ね。すぐに「それと一緒に」といってまた1セットの眼球運動を続ける、ということを粘り強く繰り返します。

    「それと一緒に」というとき、治療者は「嫌な辛い体験をそのまま続けなさい」といっていることになるのですが、「そうすることによって、眼球運動を続けることで、必ず、楽になれる」と期待を持たせ励ましていきます。眼球運動を通して極めて明示的に、患者と“共にあろう”と、常に共存・共鳴しています。「嫌な辛い体験を治療者と共に抱えましょう」という体験を提供するのがEMDR治療です。このことから、発達的な歪みが比較的軽いケースや課題を克服する機が熟している(高い治療動機)ケースでは、EMDRの数セッションのみで、主体性や自我機能の改善がなされるのです。

  2. 主観的評価尺度の意義
    EMDRではSUDs(subjective units of disturbance:直訳すれば「主観的障害単位」で、主観的な苦痛の度合を示す単位:0~10で評定される)やVOC(validity of cognition:「認知の妥当性」で、ポジティヴな自己規定の妥当性:1~7で評定される)といった主観的評価尺度を導入しています。これらは、治療の進行を数値で示すことで、患者と治療者が治療効果を客観的、視覚的に概観することができ、互いの共通の目標とすることができます。

おわりに

治療精神医学に何故EMDRなのだ?」と疑問に思われる方に、両者は確かに(特にその方法論に於いて)かなり異なっています。しかし、元々治療精神医学は「治して何ぼ」のところから始まっていますし、EMDRが前提としている精神病理モデル(心的外傷モデル)は、治療精神医学のそれと別のものではありません。したがって、治療精神医学がEMDRに関心を抱くのは全く自然なことだ、と考えられます。EMDRの驚異的な有効性は世界中の臨床家から、日々、報告され、現に終結を迎え、精神症状の再発は極めて少ないということでも、その実効性は明らかです。

肯定的が否定的に、機能が機能不全に、円滑が停滞に、とって代る。脳科学的に、これらの現象は、脳神経ネットワークへEMDRによる聴覚野、視覚野、運動野への刺激が加えられることによって、ミエリン化が起こり、シンク・レクティック(すべての事実は円滑かつ効果的に結合する)を獲得した、ものと考えられます。

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